大阪の建築家 石丸信明

間仕切りはルーズに

日本では、一般的に子供が生まれると両親の寝室で育てる。幼稚園、小学校低学年までは親子離れることがない。やがて、子供部屋が与えられ、親子が寝室を分離する。子供が大学に行くと、多くは家を出て行ってしまう。仮に就職して家に戻っても居つくことは少ない。就職を違う場所でした場合は、年に数回帰ってくるだけだ。つまり、子供部屋が実際に子供部屋として機能している期間は、わずか数年でしかない。住宅の寿命は、数十年として考えられているのに、その中のわずか数年なのである。

1人1室で子供部屋を与えるということがその家庭のありかたとして、いつも正解だとは限らない。子供の成長を通して、あるいは巣立ってからも、家族全体が住みやすい家となるために、子供部屋を少しルーズに考えてみることを提案したい。

M邸の家族構成は、両親+娘3人+祖父である。お嬢さんは高校生1人と、中学生、2人で、もう10年もすると、1人、また1人と家を出ていくことであろう。将来、娘さんが結婚され、お孫さんを連れてくるころになると、三つの個室は無意味になってくる。

私はこの家族構成を考え、3人の勉強スペースと寝るスペースを分けることを提案をした。勉強スペースは3人が一つの部屋を共用し、寝るスペースは、一つの部屋をクローゼット家具や間仕切り壁によって3分割し個室のようにした。部屋としては本当は2室である。

3人の机が並ぶ勉強スペースは、1階のダイニングやキッチン、リビングの一部から吹き抜けとなっている空間に面している。吹き抜けを仲介に互いに家族の気配を絶えず感じることができる。

それぞれの寝るスペースを仕切っているクローゼット家具や間仕切りは、天井まで届かずすき間がある。将来、移動及び撤去が可能なようになっているのだ。こ のため視覚的にはプライバシーが確保されているが、音はつつぬけである。つまり、孤立できるほどプライバシーのすべてを確保しているわけではないが、一つ の家族として、姉妹として共に生活していく際のプライバシーは確保しようということだ。

寝るスペースは、間仕切り壁やクローゼットを移動もしくは撤去すれば最大15・5畳のワンルームとなる。将来、お孫さんの遊ぶスペースとなるのか、あるいはご主人の書斎となるのか。家は、何十年もの間、生活を受け入れる器である。状況に応じ器はルーズに使いたいものだ。
1999年8月12日(木曜日)  毎日新聞掲載