大阪の建築家 石丸信明

勝手

日本語に勝手という言葉がある。辞書でひくと、台所を意味する名詞であるが、今回テーマにしたいのは、使い方をイメージする勝手である。建物の設計の仕事を進めていると、モノの設計の段階が終了し、「使い勝手」や「開き勝手」という言葉をよく使う段階になると、モノと人との関わりをデザインする段階になっている。
宮脇壇は、確か引き戸をフィンガータッチで軽く操作することをよいと言っていた。安藤忠雄は、大きな扉が動くと人はびっくりすると言っていた。アルバロ・シザの設計した教会の扉は想像を絶する程大きい。勝手の向こうに、設計者がどう人間をとらまえているのかその人間像を垣間見ることが出来る。
先日、車の免許の話しをしていて愕然とした。最近は、オートマチィックだけの免許があり、ミッションを運転出来ない人がいるそうだ。私は、「走り」とは加速を楽しむものだと信じている。それを自由に自分でコントロール出来ないとは、何たることか。オートマチックは渋滞に巻き込まれたときにクラッチを操作する必要もないが、車から「走り」の楽しみを奪ってしまっているようなものではないだろうか。
キッチンのシングルレバー混合栓は、操作とハンドルに関していろいろな考え方がある。私どもの事務所で採用していたのは、アメリカのMOENというメーカーのものだ。水とお湯との温度調整を左右の回転により行うのだが、水量はハンドルを下に押さえ込むのではなく、上に押し上げる量で決まる。これが便利だ。
勝手も流行があり、最近のキッチンの扉はあっという間に開き戸から引き出し式が主流になろうとしている。
勝手とは、料理でいうレシピのようなものだ。使う人が無意識に使い込んでいく内に、設計の意図を理解して頂ければ、設計者冥利に尽きる。勝手そのものを英語に訳せない。この言葉こそ、モノとヒトとの関係性表している。デザインという仕事を通じて、モノだけでなく、それを使う人に一歩踏み込む「勝手」を通して、デザイン出来ることは非常に面白い。